昭和49年長野県松本市生まれ。
高校卒業後、松本技術専門校へ進み、有限会社共和建工(現:株式会社住まい工房)へ入社。平成8年の独立後も、同社の現場にいくつも携わってきた。
平成22年、たかの建築設立。
高野さんが職人学校で学んだことを活かしてつくった「伝統構法の家」が2012年1月、松本市に完成しました。今や家づくりの主流となっているプレカットや建築金物を使わず、無垢材を全て手刻みで加工し、神社仏閣などでも使われる仕口継手といった木組みだけでつくられた家は地震にも強く、木と共生してきた日本人ならではの工夫が生きる優しい家です。施主は高野さんの弟さん。高野さんにとっては元請として初めての仕事となりました。
「これまでは棟梁といっても、現場監督が別にいて、施主さんとの打ち合わせなどは段取りしてくれていたので、実際には『木工事の責任者』という感じでした。今回初めて元請で新築物件を手がけました。振り返ると、トータルコーディネートしなければならない分、仕事の量が増えて大変だったくらいで(笑)、良かったことのほうが多いです。
木材は柱・土台が木曽ヒノキ、梁や桁は信州カラマツを使っています。金物に頼らなくてもいいような丁寧な仕事を心がけ、例えば、上になる部材の一部を切り欠き、下になる部材の角を欠いてかみ合わせる「渡り顎(わたりあご)」とか、「込み栓(こみせん)」とかを使っています。一つずつ作らなくてはいけないので、手間も時間もかかりましたが、職人学校で学んだことを実際に取り入れることができました。
弟は木材とか構法はあまり興味がないというか、正直、よくわからなかったのだと思います。だからその辺りはお任せで...ほとんど自分が思った通りに(笑)。
施主さんからすると、構法もこだわるという人はほんのわずかで、あまり関係ないんですよね。結局そこをどうしようと考えるのは作り手の仕事だと思います」
高野さんは特に印象的なことがあったわけでなく、いつしか自然に「大工になろう」と思うようになったと言います。しかし、漠然と抱いていた「大工のイメージ」が高野さんを職人学校に導くことになります。
「大工の仕事は、切って、叩いて、カンナをかけて...というイメージでしたが、この世界に入ると、ちょっと違っていて。でも今は、最初に頭の中に描いていた大工の仕事と近いことができているように思います。
伝統構法を特別に意識をしていたわけではありませんが、昔ながらのやり方にはずっと興味がありました。自分で本を買ってきて勉強したこともありますが、実践する場は限られていて。そんなときに職人学校のことをたまたま目にして、もうこれは行くしかないと思いました」
それまで理論的に知ることはできても、現場で実践できなかった多くのことを職人学校で学べたのは、高野さんにとって大きな経験になりました。講師の先生たちが、伝統構法を使って住宅を建ててるということを目の当たりにして、「ボルトや金物を使わずに家を建てる」ことが具体的に、現実的になったといいます。そして実際に建てて感じたのは、大工にとって「構造」は譲れないということ。
「その家のために、墨付けして、手刻みして...とやっていくことが大事だと改めて感じました。規格品ではなく、その家に住む人のためにオリジナルなものをつくっていきたい。これこそが、大工の仕事だと思えるようになりました。
最初は全然興味がなかった弟も、建て方を見ると『すごい』と言っていました。施主さんにも、木を切って、カンナをかけて...という『家を建てるイメージ』があるんでしょうね。それに近いと、施主さんの満足度も違うのではないでしょうか」
学んだことを活かして家を建てる。その経験は、また次の現場で活かすことができる。一つひとつの現場でやってきたことを積み重ねていきたいと高野さんは話します。そして、伝統構法の良さをできるだけ多くの人に伝えていきたいとも。
「若い人でも家を建てられるようにしていきたいです。すべてにお金をかけることはできないかもしれないけど、必要な部分と抑えられる部分と、うまくバランスを取りながらできるように。家は一生に一度の大きな買い物。後悔のないものにしてほしいですから。
やはり『手仕事』は何ものにも代えがたい魅力がありますよね。無垢材を使うことで健康にもやさしいし、木組みの美しさ、そしてあたたかみもある。『伝統構法の良さ』をしっかり伝えていくことも大工の仕事のうちなのかな、と思います」
伝統構法の良さを理解してもらうことが、いい家造りにつながり、ひいては大工の未来にもつながっていくのではないかと感じている高野さん。その良さをまずは大工が知らなければならないと、後輩にも職人学校を勧めているそうです。
「大工の中には、今の仕事に疑問を持っている人が多いと思います。『自分で刻まないなんて、大工じゃないよね』と言いながら。『本当の大工の仕事がやりたい』という気持ちを心の奥に持っている人なら、思い切ってやってみればいいと思います。気持ちがないと教えてもらうものは身に付かないけど、気持ちがあるなら。
今回の現場には、刻みや建て方の作業のときに、職人学校で一緒に学んだ仲間が手伝いに来てくれました。手伝いに来てくれる人も、同じような志がないと厳しいですね。作業を苦痛に思うのではなく、喜びを感じられるような人じゃないとうまくいかないです。
こういうネットワークが広がったことも職人学校を受講して良かったことの一つです。同じような思いを抱いている人たちと出会う場は、普通に仕事をしていてもなかなかないですから。そういう仲間と話せて、一緒に学べるのは有意義ですよね。酒を飲んでもすごく楽しいです(笑)」