昭和47年長野県佐久市生まれ。
高校卒業後、東京の専門学校で設計を学び、Uターン。地元ゼネコンに勤務した後、父が創業した片井工務所へ。
2009年入門コース、2010年応用コースを受講し、現在は講師としても活躍中。
小学生のころから、大工だった父の後についてきて現場を見ていたという片井さん。「いくつのときからかは覚えてないが、自分は大工になると思っていた」と振り返ります。高校卒業後には、設計を学ぶために東京の専門学校へ進学。棟梁を目指す上で職人を束ねる勉強のためにも地元のゼネコンに就職しました。現場監督をへて、大工として片井工務所に入りました。
「若いころは、なるべく近道を行きたいという気持ちが強かったですね。親父が元気なうちに仕事を全部覚えたいと思って、親父の下でやることにしました。当時、お客さんと直接話して見積もりや設計など大部分のことをやらせてもらっていたのは、二級建築士の資格を持っていたとはいえ20歳そこそこの若造だったことを考えると...親父は勇気あったなと思います(笑)。とにかくどんどん仕事をさせてもらって、それが糧になりました」
その後、仕事をしながら一級建築士を取得。自ら設計したものが形になる喜びを現場で感じながらも、一方で「自分は大工としての仕事をしているのだろうか」という疑問を持つようになります。
「仕事を効率よくこなせばお金になる。でも、それは他の人ができないような仕事なのだろうか?大工として胸を張れるような仕事なのだろうか?自問自答する中で伝統構法に行き着きました。最初は本を買ってきて勉強していたのですが、板倉構法を知り、その認定取得に全県総連がかかわっていると聞いて、それ、早く教えてよ!って(笑)。その1日講習に参加して、それから職人学校のことを聞いて、まさにタイムリーな話だと思って行くことに決めました」
ちょうどそのころには自宅を伝統構法で建てようと設計を始め、入門コース受講後に山から木を切り出しました。加工した木材を使うのではなく、丸太を見て、それぞれの特徴に応じた用途を考え、製材していく。それは昔の大工が普通に行っていたことでもあります。
「お客さんに伝統構法の良さを知ってもらうには、実際に見てもらうのが一番。とはいえ、以前建てたお客さんの家に毎回連れていくわけにもいかないので...それなら自宅を見てもらえるようにすればいいと思いました。
建てた理由はもう一つ、親父が70歳を越えて、そろそろ引退を考える年になったということもあります。親父は丸太が得意だったので、それを継承していきたい。そう思って徹底的に丸太を使って建てました。家を建てている間、他の現場にも出ていたのですが、私がいなくても親父が張り切ってどんどん進めてしまって(笑)。でも親父も喜んでいてくれたみたいで良かったです」
丸太をそのまま活かした梁、落とし板構法を用いた壁、空気の流れと採光を考えて付けた越屋根...完成した家は、作ったもの全てが見えます。そこが伝統構法の魅力の一つであり、隠せないからこそ恥ずかしくないような仕事をしなければならないという腕の見せ所でもあります。
「それまでもお客さんに良心的な価格で提供したいと頑張っていたし、材料を無駄にしないとか、コスト面とかも意識していました。その考え方はそのまま伝統構法にも通じるところがあります。学べば学ぶほど、昔の人は良く考えて作っていたのだと思いますね。本に書いてあるようなことはほんの糸口に過ぎず、実際はもっと知恵が詰まっていて奥深い。やってみて初めて気が付くことも多いです」
職人学校に入るまでは、自分のこと、自分の会社のことを中心に考えていたという片井さん。学校に通うことで知識だけではなく、仲間を得たことでその考えは大きく変化しました。
「情報交換したり、影響を受けて自分も一層の努力をしたりと、単なる友達ではなく、いい意味でのライバルができた。更には学んだことを皆で共有しよう、誰かに伝えていこうと思うようになりました。一人でやっていると自己満足になってしまうこともありますが、仲間がいることで一歩先に行ける、自分自身ももっと高められると感じています」
伝統構法を学んでも、それをそのまま活かせる現場ばかりとは限りません。そんなときでも、仲間の誰かが学んだことを活かして家を建てていることを知れば「よし、次は自分も」とモチベーションが上がることもあるそうです。
「皆、県内各所に住んでいますが、それでも年に数回は集まって飲んでいます。意外と真面目な話で盛り上がりますよ。仕事というよりは趣味のような...それくらい仕事が楽しくなったということなのかもしれません。最近はFacebookなどを使って、今やっていることを写真で見ることができるので便利ですね。気になったものは、メールしたり電話したりして詳しく聞くこともできますし」
好きなことを熱く語れる仲間がいて、目標を共有することができる。そのことは親から子への技の継承だけではなく、もっと広い意味で「受け継ぐ」ことを考えるきっかけにもなりました。今、片井さんが「理想」というのは、業種を超えて家づくりの職人が学ぶ場です。
「今後は、仲間と言っても大工ばかりではなくて、左官屋さんや瓦屋さんなど家づくりに携わる職人たちとも勉強できるようになりたいですね。それぞれの職人の考えや工夫をお互いが知る機会を作りたい。先生を呼んで話を聞くというのではなく、一人ひとりが先生でもあり生徒でもあるような学びの場が生まれて継続していければ、お客さんが求める"理想の住まい方"を実現できる家づくりにつながると思います」